転倒事故について考える

施設系サービスなどでの転倒事故は一定の確率で起こりうるもので、きちんとした事業所であればその都度分析や検討を行っていると思います。そのうえで押さえておくべきポイントは様々あると思いますが、今回はごく基本的、それでいて忘れがちなことについて述べられたらと思います。

まず、実は転倒事故をゼロにする方法があることについて。

全員歩行禁止にすればよいのです。

とは言ってみたものの、これはさすがに現実的ではないですね。歩ける方まで歩かせないというのはさすがにひどいです。

さてそれでは、「歩ける方」は転ばないのでしょうか?

確率的に低いかもしれませんが、いわゆる健常者でも転倒する可能性はあります。実は「歩く」以上、その時点で転倒するリスクを負います。しかし、「歩ける方」にとって「リスクを避けるために」歩かないというのは通常選択されませんし、結果として転倒したとしてもそれは特段の理由(危険な環境を放置していた等)がないかぎり仕方ないことです。

…さて少々乱暴ですが、ここでは一旦「歩ける方が転倒することは仕方ないこと」としましょう。すると、「仕方ないで済ますわけにはいかない」ことはどういう場合でしょうか。

「歩けない方」は文字通り歩けないので歩きませんから問題になりにくいです。

おそらく「歩くことができるがリスクが高いと見込まれる方」が転倒した場合、その対応と経過に問題がなかったか、分析と検討が必要になるのだと思います。

では「歩ける方」と「歩くことができるがリスクが高いと見込まれる方」の違いは何かというと、「リスクの高さ」ですね。つまり、程度の問題なのです。

前提として、どうやらリスクが高そうだ、あるいは十分歩行能力が高そうだ、と程度の評価をしなければならないというわけですが、これははっきりと二分できるのでしょうか。実際多くはぱっと見で判断がつくケースが多いとは思いますが、環境(平らなところ、段差、浴室など)によって違うことはもちろん、制御(慎重さ、安全意識など)の違いや体調・日内変動など、実は細かく視点はあります。

リスクマネジメントの観点からも、いわゆるアセスメント(ここでいう歩行能力等の評価)は重要になります。つまり歩行能力についてどう評価していたかということがまず前提としてあり、そのうえで事故等の分析や検討が可能であるということです。

傾向として、リスク管理の分析や検討は「管理寄り」になりがちです。リスク軽視はいけませんし、妥当なリスク管理は当然必要ですが、上で述べた「歩ける方」まで過剰に管理しかねないとすれば、それは本当のリスク管理ではないと私は考えています。

あくまで能力等をどう評価するか(していたか)ということなしに、なんとなく管理っぽくしておけば仕事した気になるというのは間違いだと感じています。

「転倒事故をゼロにするには全員歩行禁止にする」というのは、その逆説的な仮想実験です。

あくまでアセスメントが重要かつ前提、ということを強調しておきたいと思います。

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