介護保険制度が始まったころの話 3

介護保険導入の1~2年前、制度設計のための調査研究が行われていました。私が勤めていた法人は自治体の外郭団体的な位置づけの法人であったため、自治体内をかなり網羅的に戸別訪問するアンケート的な実態調査を自治体から依頼されました。

法人内で地域割りし、誰々はどこどこの担当、みたいな感じで行いました。調査内容はさほど難しくないのですが、必ずしも細かい事情に詳しい地域の担当になるわけではないので、迷いながら歩いていると突然大型犬に吠えられることがしょっちゅうあり、かなり怖かったことを個人的には覚えています。

あるお宅を訪問したときの話です。そのお宅は敷地も広くいかにも経済的にしっかりした感じのお宅でした。呼び出しをするとご老人というには若めの、また平日の昼間に在宅でいらっしゃることからリタイア間もないのかな、くらいの年恰好の男性が出てこられ、応対いただきました。

実態調査は質問形式で、「介護保険制度をご存知ですか」「利用する希望はありますか」的な(正確には覚えていません)かなり簡単なもので、たいていのお宅では軽く説明を加えながら何ということはなく済んでいくのですが、その男性は拒絶的というか、迷惑そうな感じでいらっしゃいました。

何かお忙しいところにお邪魔して迷惑、ということなのかというと、どうやらそういうことでもないようでした。

あくまで話の中身が気に入らない様子だったのです。

「よくわからんがそれ、要するに生活保護と同じやろ。うちには関係ない。」とおっしゃるので、説明しようとすると遮るように「俺は金に困るようなことはないし、家族にもそれなりのこと(経済的なこと)をしてやっている。そういうことができない人たち(彼が言う「生活保護」の人たち)とは違う。身体が不自由になろうが何とかできるようにしているから関係ないし、うちにとっては不要な制度だ。」というようなことをおっしゃると、もう帰ってくれ的な感じになり、仕方なく引き返すことにしました。

当時は、この男性とのやり取りについて「家族介護が十分にできない人は生活保護」とはずいぶん極端かつ偏見だなと思いましたし、「家族を所有しているかのような」その感じはいかにも「よくある、お嫁さんが苦労するパターン」だなとも思ったし、世の中の困る人々のための制度に自分は要らないからと怒りを向けるとはずいぶん心の狭い方だと思ったものでした。

ただし、当時の一般的な世論の印象はあくまでこうした反応は極めて少なく、「特別に古臭い偏屈な方」という印象をもったものです。

あれから約四半世紀が経ちました。

むしろ、近頃の方がこうした言説を目にすることが増えた気がするのは私だけでしょうか。

実際には、前述の男性のような考えをもつ方は、昔からいるのでしょう。一方で、さすがに言うべきでない「自分勝手な暴論」ともされていたのだと思うのです。

社会保障費が高い=高齢者優遇か? でも述べましたが、近頃は「世代間対立」や「財政問題」を理由にして、「自分勝手な暴論」が「一理ある意見」にときどき格上げされてしまっているように思います。これは大変憂うべきことだなと、個人的には思います。

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