介護施設と病院は違うのか、という問いには「違うにきまってます。以上。」でおしまいといえばおしまいなのですが、要介護者にとって、介護施設での生活と入院生活とで、誰かの世話になりながら過ごすという意味では傍目よく似ているともいえます。
結論から言えば、そこにいる理由が「生活のため」なのか「治療をうけるため」なのかという点が決定的な違いです。ものすごく当たり前のことを言っていますが、特に介護施設従事者にとっては、ときどき思い出すべき本質的な違いであると私は考えています。
「転倒による骨折のために外科病棟に入院している方」が、「よくなるまで歩行禁止」とされたとしても医学的根拠があれば妥当に思えます。なにしろ、その方がそこにいる理由は「転倒による骨折の治療」ですので、入院中に転倒骨折となれば何のために入院したのか、ということになってしまいます。
そして…その方が骨折は治癒しその後介護施設に入ったとしましょう。「転倒歴があり、転びやすい方かもしれないなので歩行禁止」とされるとしたら、まあそうだろうなと考える人もいるかもしれませんが、いま一度懇切丁寧にアセスメントする必要があることを強調したいと思います。
なにしろ、歩行禁止となったらその方は「一生」歩行しないことになるからです。治療のために人生の一時期制限される歩行と、生活の中で無期限に制限される歩行は、まるっきり違うと考えなければいけません。
そうしたことの重みがしっかり捉えられたうえで様々な制限がなされているのであれば(適切にアセスメントされているのであれば)、あくまで本人のために必要な行動制限もあるかもしれません。しかし、「一生ものという重み」に値する検討なしに軽く制限することはよくないことです。
病院や重度者中心でそもそも制限というよりできないことが多い方が大半な施設で職歴を持つ人などは、あまりにも制限や介助に慣れすぎて以上のようなことを実感しにくいという可能性があります。おそらく悪気すらなく制限を持ち込んでしまうのでしょうが、いま一度その重みを考えることと、歩行などの生活能力を少しでも失わないよう援助することの大切さを考えていくべきと思います。