「利用者負担原則2割」をめぐって

「財務省財政制度等審議会財政制度分科会」では、繰り返し介護保険の財政支出抑制案が議論されています。

抑制案の具体的内容は、

① 利用者負担原則2割

② ケアプラン作成の有料化

③ 要介護1、2の訪問・通所サービスの市町村事業化

④ 介護事業者の経営の大規模化の推進 です。

それぞれ問題ですが、とりわけ① 利用者負担原則2割 は影響が大きすぎ、とんでもないです。

現状でも一定所得以上の利用者は2割または3割負担なのですが、それは「負担能力がある」という説明で一応導入されています。実際は、大半の利用者は1割負担、つまり現在は「負担能力が十分でない」とされているわけで、「原則2割」とは「負担能力の有無にかかわらない」ということになります。

実際に導入されれば、介護サービスを多く利用せざるを得ない中重度者ほど、倍増の影響を大きく受けます。重度者であれば月々3万円以上の負担増となることが普通に考えられ、サービス利用を抑制せざるを得ない、または子世代等が負担しなければならないケースが続出するでしょう。

また、「サービス利用を抑制せざるを得ない」と言いましたが、施設入居中であれば抑制のしようがなく、退所を余儀なくされるケースも十分あり得ます。

なお、「月々3万円なんて年金十分もらってる年寄りは負担せよ」などと世代間対立的煽りをする人もいるかもしれませんが、食費や光熱水費、消耗品費等誰もが普通に暮らすために必要な経費はそもそも負担したうえで「余計に」介護費用がかかっていることが意外に知られていません。施設入居の場合も例外を除いて実費負担です。

あくまで、「財布にゆとりのある高齢者もいるかもしれないが、ゆとりのない高齢者もいる」のが「現実」です。「高齢者=金を持っている」的な言説は完全なミスリードです。子世代が金銭的援助をできる場合もあれば、できない場合もあります。あくまで「お金に十分余裕のある人」と「十分でない人」がいるのであって、世代は全く無関係です。

今まで要介護者に大幅な負担増を求める場合は、「一定の収入がある場合」とされてきました。もし「原則2割」となると、ついに負担能力を条件としない大規模な、かつてない、現実的とは思えない負担増となります。

また、介護事業者にとってはいいことが一つもありません。負担増を受けて利用を抑制されてしまう可能性はありますが、事業収入は一切増えないからです。それどころか、利用抑制を少しでも回復するため食費等の保険外利用料を割引して調整せざる得ない(結局減収となる)ケースも出てくるでしょう。減収となれば人件費が抑制され、人材の流出も招くかもしれません。全国で閉鎖せざるを得ない事業所が続出することが予想されます。

さて、実はこの「利用者負担原則2割」ですが、最近になって言われだしたのではありません。何年も前から出ては消えと繰り返されているものです。

現場にいる私からすれば、「さすがにハレーションが過ぎる、無理。」と思う案である一方、この案がどういうプロセスで今まで「消えてきた」のかも実は知りません。また、そもそも業界外の一般人にとっては、出たことも消えたこともすべてについてほぼ知らないでしょう。

つまり、「知らないうちに」「消えていた」ということは、「知らないうちに」「今度こそ決まっていた」ということも十分あり得るわけです。

私たちは、もっと知らなくてはならないし、議論に参加できる可能性があれば、参加しなくてはならないと思います。「利用者負担原則2割」は、知らぬ間にしれっと変わっていたで済まないレベルの改定だと思います。

そもそも、「利用者負担原則2割」とはあえてストレートに書いているのであって、実際には「利用者負担の見直し」とマイルドな表現がされているのです。できるだけ世論に目立たせない、つまり目立てば批判必死と考えているからだろうと推測されます。

そう考えると、2022年7月の参院選以降、3年間国政選挙がないとされている期間に、2024年の報酬改定があることは「いよいよ」なのかも知れません。危機感を持って知ろうとせねば、と強く思います。

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