社会保障費が高い=高齢者優遇か?

先日、あるタレントが「余命投票制度」というアイデアについてネット放送で発言したことが一部で話題になっています。

このアイデアを簡単に言うと「今の政治は投票率の高い高齢者を気にしすぎた政治になっており、若者のための政治になっていない。そこで年齢に応じたポイント(平均寿命からの引き算)を投票権に付与して、若者の投票の比重を高くし、若者の意見を取り入れるべきだ」というもの。

平均寿命を100歳とすれば、20歳で80ポイントとなり、60歳で40ポイント、80歳で20ポイントというわけです。20歳の1票は80歳の4倍、60歳の2倍の力を持つということですね。

このアイデアは猛批判を浴びています。私自身も乱暴な話だと思いますが、ここではこのアイデアの是非はいったん脇において、世の中にこうしたアイデアが生まれるような素地があるように思うので、それについて考えたいと思います。

国家予算の構成費で圧倒的に高いのは、社会保障費です。その要因は高齢者が増えたからであると言われています。

これにより「高齢者ばかりにお金を使いすぎだ」「高齢者は優遇されている」と理解されてしまいがちなのですが、本当にそうなのでしょうか。

私が関わる業界、介護業界も社会保障費分野となります。介護業界はほぼ介護保険制度をベースに運用されていますが、その費用は制度の定める保障範囲と報酬単価により増減します。

報酬単価は3年に一度見直されますが、仮に次回改定ですべての報酬単価が単純に2倍になったとしましょう(絶対になりませんが)。するとおそらく社会保障費のうち介護分野の費用はほぼ2倍になります。

ではこのとき、高齢者は2倍得しているでしょうか。

報酬単価が変更になっただけで受益するサービス内容は変わりませんし、得するどころか介護報酬単価が倍になれば利用者負担は倍になる仕組みなので、費用負担が増すだけです。

介護報酬が2倍になると、介護事業をする事業者の売上が約2倍になります。もし従業員の給与が2倍になれば、利益が得るのは会社や従業員ですね。もう少し広めに言えば介護業界全体という産業にとって利益があるということです。つまり、あえて世代でいえば受益者はあくまで「現役世代」であり、高齢者が優遇されるのではありません。

また、「介護業界が利益を得る」というような表現をすると、読みようによってはズルイ感じが出てしまいますが、そもそも介護業界の賃金水準は低いことで有名です。上記の例のようにいきなり2倍という話はともかく、現状よりそれなりに上積みされても不当とは言えないはずです。

介護業界を充実させるべきかという問いに対して、「介護業界など充実させるべきではない」「介護士などに高い給料を払う必要はない」という議論が正面からされることはあまりありません。

ところが、「高齢者は得をしている」「若者が損をしている」論はときどき現れ、それが社会保障費を削減あるいは積み増しを減らす論拠とされることがあります。

業界人としてはたまったものではありません。なぜなら、上に述べた通り「社会保障費が増大して高齢者が得をする」はほとんどデマであるし、そうしたいわば感情論の親戚みたいな論によって、介護業界の充実が阻まれているとも考えられるからです。

「余命投票制度」などと世代間対立が「あるかのように」あおる論は、さらに介護業界をしぼませかねないのではないかと危惧せざるを得ません。

コメントは利用できません。

お問い合わせ・見学随時募集中

お問い合わせ